真利子哲也監督 『マリコ三十騎』

 真利子哲也氏(法政OB,映画監督)
 最新作『NINIFUNI』は2012年2月より全国順次ロードショー。詳細→ http://ninifuni.net/
 
・作品紹介
 マリコ三十騎
 2004年/日本/8mm→ビデオ/24分
 製作・監督・脚本・撮影・録音・編集・主演:真利子哲也
 大学構内に学生会館があり、向かいには新築の校舎が建っている。学館で過ごしている男にとって新築の校舎は馴染めない。ある日、自分の先祖が海賊であると思い込んだ男は先祖に思いを馳せて、新築の校舎に果敢に飛び込んでいく。廃れゆく学生会館と8mmフィルムへの個人的オマージュである。
(キノ・トライブ2011 独立映画宣言!より http://a-shibuya.jp/archives/1268

・短評
 真利子哲也監督は2004年に法政大学を卒業した。すなわち、最後の学館世代に属する学生である。
 大学構内の左側には26階立てのボアソナードタワーが聳えたち、右側には今にも崩れ落ちそうな廃墟としての学生会館がべったりと張り付いている。映画の冒頭では学生会館の屋上から大学構内を俯瞰するシーンが描かれる。両者を新しいもの/古いものという対立項で描くだけでなく、真利子監督自身がどっちつかずの状態として存在している。この「今ここ」にあるキャンパスで真利子監督は先祖の力を借りて、新築の校舎=ボアソナードタワーにふんどし一丁で飛び込み、絶叫する。どうにもならないものへの思いを本能で表現する。一仕事終えた後、自分のいるべき場所(古びた学生会館の屋上)へとダッシュでかけ戻る。またここでボアソナードタワーと学生会館屋上の対比が繰り返し強調される。最後に作中で「この映画を8mmフィルムで撮ることが大学生活のケジメなのだ」と語られる。これは学生会館を、建物の記憶を監督自身の手で封印しようとする試みだったのかもしれない。故に8mmフィルムを使用したのだ。
 この映画ではボアソナードタワーと学生会館の奇妙な同居が描かれているだけでなく、正門からの風景が現在の舗装された風景と全く違っていて、2004年以前/以降の「変革」がよりリアルに感じられる映像資料としても貴重だ。