安井豊作監督『Rocks Off (未完成版)』

 法政大学学生会館のドキュメンタリー映画、安井豊作監督『RocksOff(未完成版)』について


 この映画は法政大学学生会館の末期――解体時の映像と灰野敬二氏のピアノ演奏によって構成されている。前者は人の息吹きさえ感じず、がらんどうの廃墟となってべったりと大学に張りついているホール棟。(監督談:工事中の為、学生がいない状態で大学に許可を得て撮影とのこと)後者は法政学館音楽文化の象徴である灰野敬二氏が、これまた西洋音楽の象徴であるピアノを即興によって解体していく。(監督談:灰野氏はピアノのライブ演奏は初めて挑戦とのこと)この両者の交差によってこの映画は成立し、相互に作用している。法政大学学生会館のドキュメンタリー映画といえば、80年代における幾多のGIGや90年代のインプロビゼーション性の強いコラボレーションの映像、上映映画の断片等々を使えば学生会館の文化的営みをストレートに描くこともできる。なぜならば、安井監督は初期のロックスオフとシアターゼロの両者に関わった人間で、学館の全盛期をリアルタイムで体験しているからだ。しかしこの映画は、末期の学生会館、衰弱しきった廃墟のような学館の「壁」を撮り続けている。壁には30年分の歴史が刻まれ、アジテーションの落書きが薄くなっている様からそれを読み取ることができる。ホール棟の廊下をゆっくりと横にスクロールしながら、壁を淡々とカメラに収め続けている。ここで灰野敬二氏のピアノ演奏の場面に舞い戻ると、がらんどうの学館にピアノの痛切な(決して哀切ではない)音が響きわたる。氏の演奏自体が、法政学館のアバンギャルドな音楽性を代弁しているかのようでもある。新たなライブを体感している心地よさに浸っていると、ショベルカーが学生会館を解体している現実に引き戻される。この時に葛藤するのだ――学生会館を過去の栄光とするのか、現実を受け入れるのか? しかし、灰野敬二氏による学生会館大ホールでの演奏で締めくくられる時に、この映画は臨界点を迎えて、その二者択一をしりぞける。廃墟の学館に灰野氏の音が文字通り吹き込まれる時、学館の30年は葬送される。この映画も学館を葬送する。学生会館を即興によって解体する。この映画は学生会館の解体は必然であって、偶然ではないとはっきり証明してみせたのだ。
 
1:本作を一人でも多くの法大生に観てほしいと願わずにはいられない。学館での文化的営みはいつだって「未知との遭遇」だったのだから…
2:トークで登場する佐々木敦さんの著書のタイトルが『即興の解体/懐胎 演奏と演劇のアポリア』,『未知との遭遇』なのも偶然ではなく必然であろう。

・補遺
◆2011/12/11「ロックス・オフの話をしよう」安井豊作×佐々木敦(批評家)
・すごい異様な映画だった。80〜90年代半ばまで学館には足を運んでいた。特に80年代は一番映画を観た時期なので、シアターゼロの上映企画は印象に残っている。(佐々木)
・なぜこういう映画になったのか?(佐々木)→壁(歴史)が学館の客観的な特徴だから。(安井)
・灰野さんはこの映画を"お気に召した"と。(安井)
・この映画は学館のレクイエムで、ノスタルジックな要素はゼロだと思う。(佐々木)

◆2011/12/12「法政学館の話をしよう」安井豊作×真利子哲也、田中竜輔氏による『Rocks Off』評はこちらを参照のこと→ http://p.tl/Aafr

現場写真 撮影:鈴木淳哉 協力:nobody編集部