学生会館解体をうけての記事(朝日新聞)

朝日新聞(夕刊)2004/12/04 ピンホールコラム
 近藤康太郎記者による法政大学学生会館解体をうけての記事です。

 革命ロシアの葬送歌、末期の水に
 
 まだ町田康と改名する前のパンク歌手、町田町蔵が、どこかでこんなことを書いていた。
 ――学園祭でオールナイトギグをしたのだが、楽屋で出た弁当が白米だけ。梅干しさえない。あまりの低予算に弁当屋がこういう形で抗議したのではないか。
 今となっては笑い話だが、学園祭とは東京・法政大学学生会館でのこと。通称・学館は法大の名物で、学生の自主管理をうたっていた。冬のさなか、暖房のきかない深夜のホールで、震えながら灰野敬二の轟音ギターを聴いたこともある。入場料は大抵無料もしくはカンパのみ。貧しいのも、まあ仕方がない。
 73年に利用が始まった建物で、大ホールや部室がある。いつしか布団が持ち込まれたり煮炊きをする者が出たりする部屋もあった。壁には「世界革命達成へ」など、懐かしいアジテーションの文字があふれ、まるで「解放区」のような雰囲気があった。
 この学館、実は東京でも1,2を争う良質の"ライブハウス"としてアンダーグラウンド音楽好きに知られていた。僕も、町蔵や灰野、浅川マキなど、ここで見た歴史的ギグは数知れない。学生の自治団体がライブの演目を決めるのだが、内外の先鋭的なアーティストを招請するその慧眼には教えられた。
 その名物が、今年で取り壊される。火の不始末からボヤがあったのが一因。跡地に新複合施設を建設するという。
 11月21日、学館大ホール最後のライブに行ってきた。世界の大衆音楽を変拍子のダンスビートに昇華するバンド、シカラムータがステージに立った。演奏前、これまで何度も学館でライブをしてきた大熊ワタルが、万感こめてこうつぶやいた。
 「ホールには、精霊のようなものが住みつくんですよね。さぞ精霊もくやしかろう」
 始めた曲は「同士は倒れぬ」。革命ロシアの、これ以上ないくらい騒々しい葬送歌。学館の最期らしかった。

すが秀実花咲政之輔編『ネオリベ化する公共圏』2006年4月,明石書店 所収
 シンポジウム「大学改革と監視社会」より木村建哉氏の発言 (p142,143)

 学生時代、映画を観るのにしばしば通っていたところの一つに法政大学の学生会館があります。ここにはシアターゼロという、すばらしい自主上映活動をしていた団体があり…(中略)この学生会館もごく最近ですがなくなってしまいました。ここでは、サミュエル・フラー神代辰巳の特集など本当に意欲的な上映活動が行われていて、私は数多くの映画をこの法政大学の学生会館で見て、そのことが映画学者としての私の現在につながっているわけですが、恐らくは多くの映画制作者・映画関係者が法政大学におけるこのシアターゼロの活動の恩恵を受けて現在に至っているはずです。もしここが自主管理スペースでなかったとしたら、あれほど旺盛な上映活動が可能だったでしょうか。神代辰巳などは、上映作品の大半が日活ロマンポルノでしたから、いまでこそ海外の映画祭でも盛んに特集が組まれていたりしますが、当時大学当局の許可がないと上映できないというようなシステムだったとしたら、特集そのものが不可能だったのではないでしょうか。

boid樋口泰人(映画評論家)さんに当ブログ記事を紹介していただきました。http://p.tl/JxqV